第2部:コラム
コラム①:成人発達理論(ADT)
このコラムの目的
これまで、Reapraで重要な支援活動であるiFDとSOについて述べてきました。そうしたReapraの支援活動は、Reapraの掲げるM/Vを達成するためのWayである「社会と共創するマスタリー(CCwS Mastery1)と密接なつながりがあります。以下で紹介する成人発達理論(以下、ADT)では、高次の発達段階を「自己変容型知性(あるいは自己変容段階)」と定義しており、その特徴はReapraの掲げる社会と共創するマスタリーに酷似しています。また、Reapraでは、事業への機能的支援(営業,財務の支援など)や事業計画の立案支援などのビジネスサイドの支援のみならず、起業家自身の成長・発達を通して起業家が会社と共に成長していくことを志向しています。そうした背景から、Reapraでは起業家のライフミッションの紡ぎ出しなどを行うiFDや、学習様式を支援するSOが行われています。そうした活動は、以下で紹介するADTを媒介として、起業家のマスタリー支援へと繋がっています。
本コラムは、そうしたReapraの支援活動を単体として捉えるのではなく、その背景に流れる「自己変容」と「発達」という概念を、ADTを基盤に概観することを通して、Reapraの見ている世界観への理解を深めることを目的としています。以下では、成人発達理論について概要を説明した後、ADTの観点からSO・iFDという活動について再解釈を試みます。
1. REAPRA Way (Mastery CCwS)(JP) ↩
成人発達理論(ADT)とは
これまで発達心理学は「大人になったら成長は止まる」という前提から、基本的には身体の発達に沿って「幼年期〜成人まで」と「高齢期」に焦点が当たっていました。そのなかで、ハーバード教育大学院教授 組織心理学学者の Robert Kegan が中心となって1980年代から発展し始め「成人期」の「意味構築の構造の発達」に着目したものが「成人発達理論」です。ここでは、ADTの中でこのコラムに置いて必要な要素のみを抜粋して示します。
ADTでは成人の意味構築機能の発達には段階があると言われています。そして発達段階が上がるということは、「処理できる複雑性が増す」ことにつながります。それは、考えられる視点が増え、捉えられる時間軸が伸びることを意味します。例えば、幼児期には「空腹」が、すならち泣く(ことによって親に食欲を満たしてもらう)ことに直結しており、現在自分が持っている欲求のみが思考を占有します。その後の、青年期には「空腹」は、「いまは授業中だから食事をしてはいけない」といった規範意識(他者の視点)が考慮できるようになり、また「我慢すれば食事の時間に食べる事ができる」という思考の時間軸が延長した状態で捉えられます。このような視点の獲得や時間軸の延長を伴う意味構築機能の発達が、成人期以降も起こるということを実証的に示したのが、Robert KeganのADTです。
ADTにおける変容とは
まず、変容(あるいは発達)は「葛藤を生み出すような環境/課題に対して、止むにやまれず変容せざるを得なくなった個人が、その環境/課題に適応するように自身を変化させる」ことだと考えられます。ここでいう”課題”が、「技術的な課題」と「適応的な課題」に分けられることに注意が必要です2。「技術的な課題」とは、例えばエクセルスキルや営業能力、語学力や計算能力など、スキルの不足に起因する課題(煩雑性との向き合い)を指し、これに対する適応を通して、人は学習とスキル習得という技術的な成長を遂げることができます。
一方で「適応的な課題」とは、「これまでの考え方・意味構築の構造」を否定しなければ解決できないような課題のことを指し、多くの場合、単一の能力の有無ではなく、それらを複合的に活用する必要のある場面や、人間関係上の葛藤に直面するような課題(複雑性への向き合い)がこれに該当すると考えられます。そして、この「適応的な課題」に対する適応を通して、人はこれまでの自身を脱構築・変容させていくと考えられます。ADTが捉えている自己変容というものは、「知識」や「技術」そのものではなく、それらを習得し、統合し、活用している主体である「自己」そのものを深化させるものなのです。
上記のような「技術的な成長」と「意味構築機能の変容」を、ADTでは「水平的発達」と「垂直的発達」と呼びます。水平的発達・垂直的発達の関係性は、ADTにおいては、PCのOSとAppの関係性を用いて説明されることが多いです。一つ一つ固有のAppのアップデートは、検索能力や計算能力など場面に置いて求められる機能の質が高まる一方で、OSのアップデートはそうした個々のAppの並列処理機能や根本的な機能(処理速度など)の改善を通してPC全体へ影響が波及します。しかし、これは、垂直的発達(意味構築機能の変容)が、必ずしも水平的発達(技術的成長)より重要であるということを意味しないことに注意が必要です。
2. ロバート・キーガン『なぜ人と組織は変われないのか』(英治出版,2013),p45 ↩
1)SO×ADT
ここまで読んだ方にとって、SOが目標としている”新規事業の探索”や”高利益体質を作り上げること”と、その効用として”自我変容が起こること”とは、一見して無関係のように思えます。しかし、成人発達理論(Adult Development Theory. 以下、ADT)の観点からSOの取り組みを見た時、ADTの明らかにする自我の変容のあり方と、SOの取り組みとは決して無関係ではなく、相互に関係しあっていることがわかります。
また、そもそもSOの効果として自我変容を掲げる背景には、「世界の複雑化に対応するためには、関係者の内的な成長や成熟が必要である」というADTの考えがあり、これを理解することで、SOの取り組みを単なる「目標設定と達成」というものではなく、内的な側面を踏まえたより深い営みとして理解することができます。
このコラムは、SOで重要な要素とされる、”成り行きでは届かない高い目標を掲げること”や、”探索と作りこみ”や”あの手この手”などがどのように自己変容につながるのかという関係性について、ADTという学問を用いて解釈し、SOへの理解を深めることを目的とします。
以下では、なぜStrech Targetを掲げて、自我課題に向き合いながら、掲げた目標に対して、探索と作りこみやあの手この手をすることで、自己変容が行われるのかについて述べます。
自我課題に向き合う必要性
自我課題とは「IFDを通じて整理した自分らしさ・サバイバルメカニズムに基づく学習の癖のなかでtobeに対して損をするもの。意識・無意識的に目を背けているもの。学習を捨象させているもの」であるとされています。しかし、この自我課題は、自らが認知する現実の幅や高さや深さそのものを拡張していくことで解決できます。端的に言えば、意識そのものの変容が必要になるものであり、まさに自己変容を促す課題であると言えます。
ストレッチターゲットを掲げることの意味
SOというのは、現在においては実現の仕方が見えないような高い目標(ST)を意図して立てることで、現状の自身の自我と環境に紐づく習慣化された学習様式の強化学習によって過去構築された行動をしていても、達成できないという状態を作り出そうとする行為です。
自分の過去の経験や現在の包容力に囚われない環境を作り出すが故に、「これまでの考え方・意味構築の構造」を疑い、時には否定することが求められることで起こる、現在の自分と目標を体現している自分の違いの差について葛藤するという構造に陥りやすくなっています。
ADTにおいては、主要な発達段階から一歩成長するというのは、不安定な地面に立っているのと同じです。喩えると、これは天国から追い出され、見知らぬ場所へ追いやられるのと同じなのです。つまり、主要な発達段階から一歩成長することは往々にして自己喪失感を伴います3。自己喪失とは、それまでの意識の重心構造から離れ、新しい意識の重心構造が構築される時に経験する喪失感のことであり、より成熟した発達段階へ移るための心の代償と言い換えることができます。何を喪失するかは、発達前の意識の重心構造(認識の枠組み)によりけりです。このような自己喪失感を得やすいという意味で、ストレッチな目標を掲げることは自己変容が進みやすい状況と言えます。
3. オットー・ラスキー著・加藤洋平訳「心の隠さされた領域」(IDM出版,2016),p130 ↩
探索と作りこみ
次に、探索と作り込みとは、目の前の事業の改善等のためにあの手この手で試行錯誤する「創り込み」と、実践から得たインサイトを基に正解のない状態から手探りで正解を作りに行く「探索」とを相互に作用させながら行うことです。
ここで、ADTにおける自己の脱構築サイクルというものについて述べます。特に発達段階4から段階5に到達していくためには、既存の価値観を壊し、新しい価値観を作る、作っては壊すという、「死と再生のプロセス」と呼ばれるプロセスが求められてきます4。
事業領域の拡張を通じて、既存の価値観を疑い、新しい価値観を作り込んでいくという意味で、探索と作り込みをしながら死と再生のプロセスを疑似体験していると言えるのではないでしょうか。企業が変化し続けるマーケットの中の生存競争を経て在り方を変化させ続けるのと同様に、経営する起業家自身も変わり続ける環境の中で自己を変容し続けていくともいえるでしょう。
4. 加藤洋平『なぜ部下とうまくいかないのか』(日本能率協会マネジメントセンター, 2016) ↩
あの手この手
さらにこの探索の中で行われる「あの手この手」は、日常の中で出会う価値観や認知と社会のずれに気づきやすくし、少しずつ自己変容をしていくための試みであると言えます。
例えば、あの手この手の中に感情の振り返りという取り組みがありますが、これは意識的に小さな気づきや感情をトラッキングし「①何に気づくのか②何を自分ゴトとして捉えるか③何をアクションとして切り出すか④アクションをどう実行するか」を定期的に伴走者と内省するものです。この一連の内省の真価は①~④を客観視することで、自我が捉えやすいもの・捨象しやすいものに気づき、意識的に拡張していくことにあります。
タイムマネジメント等の他の取り組みにおいても同様で、「不透明な環境下で As-isとTo-beおよびその差分を、複数の時間軸から多面的に捉えることで長期的に自我の客観的な認知を促し、差分を埋めるための小さなあらゆる施策を数多く想起し、いち早く実践することで新たな価値観や自我の創出・成熟を促す」ことが高速学習サイクルで行われていることであると考えられます。ADTの観点でいうと、小さく意図的に自身と取り巻く環境やTo-be のずれを認識し、自我を小さく修正して再構築する流れをまわすパッケージが「あの手この手」だと言えるでしょう。
SO×ADTまとめ
SOをADTで捉えると、複雑性の高い領域でSTを掲げることによって半ば意図的に発達を促すような適応課題と出会い、そこでの失敗による自己喪失(死)とあの手この手による新たな学習様式の獲得(再生)を通じて、自己変容を促進する営みと言えます。
2)FD×ADT
次に、Reapraにおいて重要な支援活動である、FDとADTとの関係性に光を当てます。第二部で述べたとおり、FDの目的は、社会と共創する熟達という概念を前提に、対象者が現在に至るまで形成された「らしさ」を構造的に理解し、それを前提としたライフミッションを紡ぎ出すこと、そしてライフミッションを体現するにあたり足元の学習環境やマイルストーンを整理することです。この目的を果たすために取られるステップとして、①過去の環境と自我の相互作用により形成された自我の構造の理解、②将来に渡り向き合い続けたいミッションへの昇華、③社会性をもつアジェンダへの変換、④現状の認識、⑤短期の目標設定があります。
成人発達理論が意図する、人の変容(垂直的発達)を促進させるためには「人」「課題」「環境」という3つの要素のバランスを意識することが重要とされています5。ここで取り上げられている「人」は能力レベル・性格・マインドセットなどを含めた当人の特徴を意味し、「課題」は人が立ち向かっていく課題の種類と難易度、「環境」は当人を取り巻く環境の特性を指しています。これらの3要素は相互に影響を及ぼし合うことから切り離して考えられるべきものではないため、発達に役立てる際にはそれぞれの要素の制約条件と相互作用を意識した上で振り返りを行うことが大切とされています。
以下では、人の変容という視点から見た時に、FDをおこうなう際に注意すべき点を「人」「課題」「環境」という3要素で整理しながら述べていきます。
5. 加藤洋平『成人発達理論による 能力の成長』(日本能率協会マネジメントセンター, 2017) p218 ↩
「人」
FDでは幼少期からの記憶を辿りながら、深いレベルで自分、つまり「人」の部分を理解しにいきます。出生時や幼少期の環境の把握や、幼少期に起こった印象的な出来事を思い出し、自身のストーリーとして整理していくことで、これまでの自分には見えていなかった自分を認識していくことに繋がります。自分が知らない自分自身を知りにいくためにも、日常生活の中で自我が感情的に反応する部分に注目していくことが大切です。人間が知性を使って理解していたつもりでいることと、自我が感じ取っていることには違いがあること多いです。そのため、知性を使った状況の整理にとどまらず、自身の体が直感的に感じ取っていることに注意を向けることで、より深く自分自身について知ることができます。知性の部分で認識している自分と自我が反応する部分で見えてきた無意識領域にいた自分が混じり合うところに、自身が十分にエネルギーを注ぎ込めるようなライフミッションを見つけることができます。つまり、自我が志向していることと、知性が志向していることの方向性をすり合わせるのが、FDという営みとも言えるのです。
「課題」
FDを通してライフミッションが見えてくるのと同時に、自分の理想の状態に向かっていくために向き合うべき自我課題も見えてきます。自我課題と向き合っていく上で重要なのは、自身に適切な種類とレベルの課題を用意していくことになります。
発達心理学者のフィッシャーは、人が直面した課題を乗り越えられた時というのは、A. 他者からの支援を受けずに自分一人で成し遂げられた場合と、B. 他者からの支援を受けることで、できなかったことができるようになる場合があると言っています6。A. とB. の間にある領域のことをフィッシャーは「発達範囲」、また別の人の発達心理学者のヴィゴツキーは「最近接発達領域」と呼び、両者とも「発達範囲」や「最近接発達領域」が人間発達において意識すべきポイントだと論じています。他者の支援を受けることで、自分一人では難易度が高かった課題に挑戦することができた時、人は高度な能力を発揮できます。また、人間の能力は向き合う課題に依存する形で変化を遂げます7。これらの点を意識しながら、自身のライフミッションや自我課題と適当な距離感を持って向き合いながら自身を変容させていくためには、自身にとって適度にストレッチな状態とは何か、またその状態を生み出す課題とはどういうものかを考えることが重要です。
6. 加藤洋平『成人発達理論による 能力の成長』(日本能率協会マネジメントセンター, 2017) p82 ↩
7. 加藤洋平『成人発達理論による 能力の成長』(日本能率協会マネジメントセンター, 2017) p59 ↩
「環境」
最後に「環境」についても触れていきます。唯一無二の概念を作り上げていくということが前提に置かれている社会と共創する熟達という生き方は、難易度が高いことからストレスも多く受けます。苦しさから、ライフミッションに沿った生き方を投げ出したくなる時に大切になってくるのが、伴走する人の存在です。大人になると、幼少期の頃と比べて他者から支援を受ける機会が減る傾向にあります。しかし、その環境に反して、乗り越えなければならない課題には他者の力を必要とするものが多いです8。また、上述したように、人の発達が最も促させる課題は、他者からの支援を受けながら取り組んでいく課題です。他者から適切な支援を受けられるような環境作りを自らしていくことは、ライフミッションに向き合おうとする当人の発達にもポジティブに作用します。そのため、FDでライフミッションを紡ぎたした後、そのライフミッション実現に向けて寄り添い、支えてくれる伴走者の存在を見つけにいく事が重要です。
8. 加藤洋平『成人発達理論による 能力の成長』(日本能率協会マネジメントセンター, 2017) p237 ↩
FD×ADTまとめ
人間の発達といった観点でFDを見た時に、意識すべきことについて述べてきました。これらが意識されながら丁寧にFDが行われた先には、自分自身も知らなかった自分に出会い、それを考慮した形でのライフミッションと自我課題の言語化が可能になり、課題に向き合っていくための環境の整備ができます。つまり、丁寧にFDをしていくことこそが、人間が発達していくために必要な3つの要素の整理の場になりうるとも言えます。
しかし、深い意識(無意識、シャドーなど)に対する内観は、個人の構造化力や内省力に依存するとも言われています。極例として、我々よりも幼少期だった頃が近い中学生であれば、私たちよりも幼少期の記憶を思い出すことは容易なはずですが、「幼少期の経験を通して親から受けた自我への影響を語りなさい」と言われた時に、内省の深みは出にくいはずです。したがって、FDの到達地点とも言える、どの程度の深い領域まで個人が内省の光を当てることができ、それを頭のみでなく身体的・心的な納得感をもって語ることができているか、また内省した内容をいかに自身の願いと社会課題を最大限に絡めたライフミッションに落とし込めるかは、当人のその時点での世界の見え方に応じるとも言えます。個人の中の「人」「課題」「環境」は相互に関係しながら、絶えず変動していくものです。そのため他者との対話を通して絶えず自分に向き合っていくこと、定期的にFDを行うことには意味があると言えます。
第2部コラム①を読んでいただきありがとうございました!自分の理解度や疑問点の整理ができるアンケートをご用意しておりますので、よろしければお使いください。
コラム②:シャドーワーク
ReapraではFDやSOなど研究と実践をとおして紡ぎ出された独自の概念を用いて産業の創出に向き合っています。これらの概念にはベースとなる既存の理論がいくつかあり、その既存理論に関してもまた、実践や学習を繰り返し、Reapra概念への反映に活用しています。
ここでは、その既存理論の1つでありまた実践を進めている「シャドー」および「シャドーワーク」についてその概要を述べていきます。
この時点でシャドーについて理解していなくても構いません。
シャドーワークの概念と目的
シャドーとは
自分の意識から切り離し、追い出した心の諸部分のことをシャドーと呼んでいます。例えば、通常、シャドーは無意識に潜んでおり、内省などを通じない限り認知することが難しいです。
シャドーの成り立ちは個人によりますが、私達が日常生活の中で拒絶・隠ぺいしている視たくない性格や感情などが多いです。またその経緯と無意識下にいる特徴から、「抑圧された無意識」とも形容されます。
無意識下にいるシャドーは何もしないまま潜んでいるわけではありません。
例えば怒りなどの強い感情を感じる時には、あなたのシャドーが顔を見せているかもしれません。
上図をもとに述べますと、普段私たちが何かしら考え、伝え、行動する際は『意識』の領域において行われます。
「(これってこういうことかな?)」
「これから、こういうことをやっていきたい」
「あの人ちょっと苦手なんだよな…後回しにしちゃおう」
などなど、意識的な言動は多くあると思います。
これらの言動はすべて自分がコントロールしているかのように見えますが、実は『無意識』の領域による影響が大きいケースがほとんどです。『無意識』の世界は私たちが思っているよりもずっと広いのですが、無意識であるがゆえに、普段は認識することができません。
シャドーワークとは
抑圧することで無意識に追い出したあなたの心を、もう一度あなた自身へ、健全な形で解放・統合する営みを「シャドーワーク」と呼んでいます。
なおその手法は、本資料の後半で紹介する3−2−1プロセス以外にもアートセラピーなど様々ありますが、Reapraでは3−2−1プロセスに重心を置いております。
下図はシャドーが生まれるまでとシャドーワークによって統合するまでを表しています。
より具体的な内容については後述しますので、ここではなんとなくのイメージを持たれるくらいで大丈夫です。
なぜシャドーワークが必要か
CCwSマスタリーにおいて重要視されている、学習捨象の回避および自己変容のために、自我課題との向き合いが不可欠です。そのための1つの方法として、シャドーワークが効果的と見ています。シャドーの存在により捨象されていた側面(ブラインドスポット)を少しずつ減らしていくことで、視野が広がり、熟達化に向けた学習が進みやすくなるでしょう。
またシャドーワークでは、学習を阻害する要因の1つであるシャドーの存在を認知するところから始まります。自分の日々の言動の構造を理解する、つまり、「なぜ自分が意図しない結果を繰り返し引き起こしてしまうのか?」という問いに答えていくことにつながるのです。
実際にReapraではどのような場面でシャドーワークが用いられているのか、そのつながりについて見ていきましょう。
Reapraでの活用
1)自己変容型への支援
複雑性の高い領域において、起業家は扱える変数を多くすることが必然的に求められます。これに対し、成人発達理論に照らした際、発達段階がステージ5.0≦Xが理想であるとReapraでは仮説を立てています。そしてこの段階に至るためには、特にステージ4.5≦Xにおいて、シャドーとの向き合い(シャドーワーク)が重要な取り組みの一つとして挙げられています。
なお、ステージ4.5>Xの方へも活用可能ですが、そのやり方によってはコンディションの悪化を招く可能性も高い(必要以上に自分を責めるなど)ため、必ず伴走者をつけたうえでおこなってください。特にステージ4.0>Xの方は、自身の価値観や独自性を獲得するために、弱みよりも強みに焦点を当てたほうが良いケースもあります。
2)Reapra概念への反映
ReapraではIFDやPBF、SOなど独自の概念を構築し起業家への支援に用いています。
その中でもIFDおよびSOに関してはシャドー/シャドーワークの考え方が取り込まれ、その有効性について実践と検証が行われています。
Reapraで扱う他概念との差
続けて、Reapra独自の概念とシャドーワークはどのように異なっているのか、どういう点で共通しているのか見ていきたいと思います。
本資料では、特に議論となりやすいFDとSOについて取り上げます。
ただしReapraの概念は往々にして名称や内容がアップデートされるため、本資料に記載されているものと異なることがあるかもしれません。あらかじめご留意ください。
1)FD(ファウンデーション・デザイン)
FDの流れとしては、主に下記の6点が挙げられます。
①幼少期に遡って囚われ(らしさ)を発見する
②囚われに潜む「願い」を見つける
③囚われがどうアップデートされてきたかを振り返る
④囚われが持つ願いに社会性を帯びさせ、ライフミッションへ変化させる
⑤ライフミッション実現のために、今後10年にわたって熟達する領域を選択する
⑥エントリーポイントの設定
このうち、①と②(ケースにより③)においては後述するシャドーワークの1つである3−2−1プロセスと共通しています。3−2−1プロセスにおいても
FDの目的は、「社会と共創するマスタリーという概念を前提に、対象者が現在に至るまで形成された「らしさ」を構造理解しそれを前提としたライフミッションを紡ぎ出すことと、ライフミッションを体現するにあたり足元の学習環境やマイルストーンを整理すること」です。(FD文章参照)
自分の「らしさ」と「願い」を考慮した上で、自分にとって適切なライフミッションを紡ぎ出す、ゴール設定をする時に用いられるツールとも言えます。
それに対しシャドーワークは、現在自分が持っている自我課題と向き合うために使われるツールです。
FD | シャドーワーク | |
---|---|---|
共通 | 過去にさかのぼり、囚われ(らしさ)の発見。 囚われと対話し、その背後にある願いの言語化。 |
過去にさかのぼり、シャドーが生まれた出来事の再確認。 シャドーと対話し、その裏にある願いを認知する。 |
違い | 願いをもって、ライフミッションやマスタリーなど『自分がどうありたいか』を紡ぎ出す。 | 抑圧した結果生まれたシャドーも自分自身であると受容・許容し、統合する。 |
「結局囚われとシャドーってどう違うの?」と思われるかもしれませんが、囚われは人生の中で初めて形成されたシャドーであると言い換えることができます。シャドーの形成は年齢に関係なく起こりえますので、その点についても大きな違いと言えると思います。
2)SO(ストレッチ・オペレーション)
SOは、ライフミッション/マスタリーに向かってどのように突き進んでいくのかという文脈で使われる、Reapra概念の1つです。熟達するために没頭できる環境を選び、目標を設定し、学習サイクルを回していきます。
シャドーワークにおいてもどのようにしてシャドーと向き合っていくか行動計画を立てることもあり、この点に関しては共通していると言えます。では、その違いはなんでしょうか。
SOとシャドーワークとの大きな違いは、コミュニケーションスタイルにあります。
SOは目標の達成が主目的にあるため、シャドーによる課題が認識されると『ではどうしたら前に進めるか』という、父性的な思考に重心が置かれます。
シャドーワークはシャドーとの統合が主目的にあるため、同じ状況に陥った時には『このシャドーもまた、私である』といった、包容力のある、母性的な思考がベースとなります。
SO | シャドーワーク | |
---|---|---|
共通 | 目標を達成するための、計画を立てる。 | シャドーワークを進める上での、計画を立てる。 |
違い | 『前に進む』といった父性的なコミュニケーション。 | 『それもまた、私である』といった母性的なコミュニケーション。 |
シャドーワークの実践
シャドーワークの対象
シャドーワークはすべてのシャドーに対して実施すれば良いかというと、実はそうではありません。シャドーにも否定的・肯定的がありますので、下図を参考にし、適切にシャドーと向き合いましょう。
否定的なシャドー | 肯定的なシャドー(ゴールデン・シャドーとも) | |
---|---|---|
特徴 | 過去のトラウマなどから影響するもの。攻撃的な振る舞いを誘発させる。 | 自分の成長をさらに押し上げるもの。憧れなどもこれにあたる可能性がある。 |
シャドーワーク実施 | 自己の表現や成長の妨げになるならば、したほうが良い。 | 『このまま、大切にしたほうが良い。 |
3−2−1プロセス
現在Reapraではケン・ウィルバーが提唱した3−2−1プロセスをベースにしたシャドーワークの支援を行っています。
大まかな流れとしては
Step 1)自らのシャドーを認知する(3人称:『それ(It)』とシャドーを認知)
Step 2)シャドーと対話する(2人称:『あなた(You)』とシャドーを認知)
Step 3)シャドーを統合する(1人称:『私(I)』とシャドーを認知)
なぜこれが有効なのか、それはシャドーの成り立ちにあります。
シャドーができるまで、つまり意識を抑圧するまでには、下記3つの段階で整理されます。
1. 私は怒りを感じるが、環境や状況により、それは許されない:1人称
2. 私は怒りを感じない。『あなた』が怒りを感じているのだ:2人称
3. 怒り?何のことだ?:3人称
もともと自分の意識下にあったもの(1人称)は、抑圧され(2人称)、無意識の領域へと(3人称)放棄されています。
より具体的には、以下のようなイメージで形成されます。
- 私は遊びたい。でも親からは「遊びはけしからん。勤勉こそが重要だ。勉強しろ。」と言われる。私が遊びたいと言えば怒られてしまう。だから遊ばない。
a. 『遊びたい』と思うのは「私」であるが、その気持ちを抑圧 - 遊んでばかりの人がいる。まったくけしからん。私は彼にこう言った。「遊んでばかりいないで、勤勉でいたらどうだ!」
a. 抑圧するときの怒りを他人にぶつける。『遊びたい』のは「あなた」であり、「私」ではない。(と思い込んでいる状態) - 勤勉であることが最上であり、そうであり続けることは当然なのだ。遊ぶ暇もない。今日も私は勉強に仕事に忙しい。
a. 無意識の領域に『遊びたい』気持ちを追いやり、意識の世界に『遊びたい』気持ちは存在していない。
シャドーは1(1人称)−2(2人称)−3(3人称)のステップを踏むことで生まれることを見てきました。このプロセスに注目し、3(3人称)−2(2人称)−1(1人称)の逆方向によるプロセスを通じて統合を図るのが、ウィルバーが提唱した『3−2−1プロセス』です。
「それ」と存在していたものが「あなた」として回復され、そして自己の側面そのものとして「私」へと回復されるのです。
改めて、『シャドーワークとは』に載せている図を見てみましょう。(下図)最初に見た時よりも、しっくり具合が大きいのではないでしょうか。
Reapraに対して支援頂いている日本人として発達理論の第一人者である加藤洋平先生から、過去にシャドーの扱いに関する助言/見解を共有いただいていますのでここに残します。
加藤洋平先生より
- シャドーは名前をつけると良い。*恐らく3人称のことを指していると思われる。
- シャドーにお願いするなら何か?を問うてみる。
- シャドーの願いは聞かなければならない。
- シャドーは無数に個人の中に存在していて、シャドー同士の関係もある。仲の良いシャドーもあれば仲の悪いシャドーもある。
- シャドーが見つかったと思ったら、その後ろにでっかいボスシャドーがいることもある(子分シャドーと親分シャドー)。
- 複数のシャドーがくっついて一つに見えるときもある
※注意事項※
専門家たちの指摘で、「シャドーは統合するもので、消去したり分離してなかったことにするものではない」と警鐘されています。当初の意識下では認知もできなかった感情を三人称にして可視化させた後、なかったことにせず、それに向き合っていくことが重要です。
拒絶したくなる場合もあるかと思いますが、その場合には、一旦落ち着くまで待ちましょう。そして、少しずつ統合の道を歩んでいきましょう。
使用ツール
それぞれのツールは自己理解や対話のための材料として活用しています。そのため、スキーマ療法やその他のツールにおいて、その理論そのものを信用・傾倒する必要はありません。あなたが自身のミッション/ビジョン(あるいはライフミッション/マスタリー)と照らし合わせて、自己理解の深化が必要だと感じた時に、活用してください。
なお、ツールを用いて支援する際には、各ツールの科学的な信頼性を強調するのではなく、あくまで自己内省への活用可能性を念頭に起き、それを伝えることが重要です。
名称 | 特徴 | こんなときに有効 | 診断URL |
---|---|---|---|
エニアグラム | 性格の傾向を切り口として、その形成過程が内省対象となる。 | 自身の客体化を進めようと考えている場合や、自身の弱点などを見つめ直したい場合。 エニアグラムの判定により、自身を客観視することを支援できる。 |
簡易版 詳細版 |
MBTI | 思考の強み・弱みや、業務の特徴などを把握するとともに、将来どのような能力の強化が必要かなどの示唆を出せる。 | 変容にオープンでない場合や、現状の課題を自我と結び付けられていない場合。そこそこ経験を積みかさねており、自身のスタイルを確立している場合。 自我ではなく、能力の文脈で成長の必要性を促せる。 |
こちら |
スキーマ | 幼少期から形成されたバイアスや思い込みを対象化することができる。 | 自我の歪みが自他に課題を生んでいる場合や、明らかに感情や認知の歪みなどが悪影響を及ぼしている場合。 スキーマにより自己の傾向を客観化できる。 |
こちら |
もっと!シャドー
資料集
本資料作成に参考とした資料ならびにもっとシャドーについて学びたい方へ送る、参考資料集を用意しました。
他にもたくさんありますので、気になる方はぜひシャドーワーク一般化チームへご連絡を!
書籍
オンライン動画研修
Reapra作成資料
- 成人発達理論分科会 vol.4
- 成人発達理論包括資料
- シャドーワーク分科会vol.1
- シャドーワークエントリー
- シャドーワーク一般化ペーパー 1st
- シャドーワーク一般化ペーパー 2nd
- スキーマ療法を活用した発達支援の試みlonG
第2部コラム②を読んでいただきありがとうございました!自分の理解度や疑問点の整理ができるアンケートをご用意しておりますので、よろしければお使いください。 メールでのフィードバックは book-feedback@reapra.sg まで。